皇帝の正室の凋落
奇皇后もこれ以上タナシルリの機嫌を損ねないように配慮せざるをえなかった。
しかし、奇皇后にも我慢の限界があった。とにかく、タナシルリのいじめは執拗であり、奇皇后は鞭で叩かれたり、熱した焼きごてを肌にあてられたりした。
奇皇后は必死になって窮状を高龍普に訴えたが、高龍普もどうすることもできなかった。やはり、彼もエル・テムルを恐れていたのだ。
しかし、状況が急に変わってきた。
トゴン・テムルとエル・テムルが厳しく対峙するようになったのだ。
こうなると、トゴン・テムルもますますタナシルリを遠ざけるようになった。その反動で、奇皇后は皇帝に心から愛された。
そんな最中、エル・テムルが急死した。これは、タナシルリの危機を表していた。
さらに、タナシルリの凋落を誘う出来事が起きる。彼女の兄がクーデターを計画するが、失敗に終わってしまった。
「タナシルリもクーデターに加担していたに違いない」
そんな嫌疑をかけられて、タナシルリは宮殿を追放された。
そして、絶命に追い込まれた。
こうして奇皇后の敵が皇室からいなくなった。彼女は側室として、さらに皇帝に愛されるようになった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)