端宗の復位計画
ある日、端宗のもとに密かな知らせが来た。集賢殿(チッピョンジョン)の若い臣下たちを中心に、端宗を復位させる動きがあるという。それは、驚くべき話だった。
集賢殿というのは、端宗の祖父の世宗(セジョン)の時代に研究の拠点にした施設だ。ここに集まる官僚や学者は優秀な者ばかりだった。彼らが考えたのは、“世祖が端宗から王位を奪ったのは、越えてはならない線を越えてしまった”ということだった。
すでに儒教が国家の支配理念として確立されていた朝鮮王朝で、世祖がしたことは倫理に反する違法行為だった。最高の人材がいる集賢殿が大義名分のないクーデターに反旗を挙げたのは、ごく自然なことだったかもしれない。
そんな若くて気鋭の官僚・学者たちの意志は、そのまま端宗の運命を決定するものでもあった。すでに世祖が君臨している中で、もしも端宗の復位が失敗した場合、ふたたび殺戮(さつりく)の事態に陥ることは容易に想像できた。もちろん、端宗とて命の保証はなくなるだろう。
それにもかかわらず、端宗は彼らを支持した。まわりの皆が世祖の権力につられて自分を捨て去ったあと、端宗としては集賢殿の存在だけでも大いなる感激だったのである。
しかし、端宗の復位計画は失敗に終わった。加わった者たちは「死六臣」と呼ばれ、その忠義の心が称賛されたが、世祖によって無惨に処刑された。
さらには、再び復位計画が起きないように、端宗も世祖によって死罪にさせられた。こうして朝鮮王朝は「不条理な王朝」になってしまった。
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