史実から自由なストーリー展開
韓国では46・1%という視聴率を記録した『太陽を抱く月』。『トキメキ☆成均館スキャンダル』のチョン・ウングォルによる、韓国で100万部を超えるベストセラー小説が原作となっている。
『太陽を抱く月』はフュージョン時代劇、あるいはファンタジー・ロマンス史劇とよばれている。ドラマの舞台は朝鮮王朝の架空の時代であり、主役の王イ・フォンをはじめとする登場人物も、もちろん全員が架空の存在である。
このように完全なフィクションにすることで、自由なストーリー展開が可能になる。
その結果、陰謀や権力闘争などのスケール感は大幅にアップし、恋愛や憎悪、さらに運命(の出会い)といった表現も、より劇的に、よりダイナミックなものにつくり上げることができるのだ。
また、このドラマではヒロイン、ウォルの職業であり物語のキーともなる巫女(呪術)、王位継承問題、悪女や外戚、記憶喪失、そして何よりも純愛や三角関係といったラブストーリーなど、いままでの韓国時代劇でわれわれを楽しませてくれた、さまざまな「要素」が至るところに配置されている。
このように、ドラマを構成する要素を縦横無尽に扱える点も、完全なフィクションにするメリットだ。それらの要素が相互に作用し、化学反応を起こすことで、ドラマの“重層感”はいっそう増している。
そのなかでも物語の大きな核となっているのが巫女に関する描写だ。韓国における巫女の存在は歴史的にも大きく、実際に王宮に入り込み、政治とも密接に連携していた。いわゆるシャーマニズム、呪術が長く信じられていたことも事実である。
ドラマに出てくる星宿庁(ソンスクチョン)は王室の祭儀を担当する官庁であり、朝鮮王朝初期には実在したと考えられている。同庁はまた、ヨヌが死亡する際の「秘密」を握るミステリアスな存在でもある。
本作では巫女による呪術シーンでCGが実に効果的に使用され、見るものを引きつける。
同様の演出は、フォンとヨヌが最初に出会う美しい場面でもなされている。こうした幻想的、ファンタジーの要素満載なところは、従来の時代劇には見られなかった。これも、史実にとらわれない、自由な発想から生み出されたものだろう。(ページ3に続く)