第一次王子の乱
芳遠は後継ぎの座を諦めていなかったために、つねに自分の敵になりそうな者を観察していた。
「おそらく鄭道伝の策略に違いない。芳碩は私たち兄弟をなき者にする気だな。そうはさせんぞ」
芳遠は私兵を集めると王宮の周囲に待機させ、自身も服の下に甲冑を着込み王宮へ向かった。
芳遠の予想通り、芳碩も鄭道伝も王宮の庭に姿を見せなかった。芳遠は手はず通り、兄弟たちにこの危機を知らせて王宮から退避させると、王宮に私兵を突入させた。
「鄭道伝が芳碩と組んで、我々王子たちを皆殺しにしようとしている。これは明確な叛乱である! いまこそ逆賊を打ち倒すのだ」
この日のために準備してきた芳遠の私兵は強く、鄭道伝たちの軍勢を寄せ付けなかった。そして、芳遠は隠れていた鄭道伝を見つけ出して斬った。同じように芳碩と芳蕃を殺した。さらに、太祖には2人が反乱を企てたと報告した。
しかし、太祖はその言葉を信じず、芳遠を反逆者呼ばわりして罵った。
「貴様ら、誰の前で剣を振り回しているのかわかっているのか。根性を叩きなおしてやる!」
李成桂の怒りはおさまらなかったが、芳遠は必死にその場をおさめた。
こうして、後継ぎの座を巡って王子たちが殺しあった「第一次王子の乱」は、多くの血を流して幕を閉じた。
この事件に最もショックを受けたのは太祖であり、彼は王位を退いた。代わって王位についたのは次男の芳果だった。芳遠もいきなり自分が王になるのは時期尚早と考え、とりあえず一歩下がったのである。(ページ3に続く)