怯える日々
尹元衡夫婦は王宮から逃げ出した。
そのまま留まれば、命を奪われるのが目に見えていたからだ。それほど夫婦は怨みを買っていた。
田舎で息を潜めて生活していた尹元衡と鄭蘭貞。近所に都から使者がやってきたという話を偶然に聞いてしまった。
「自分たちを殺しにきた!」
使者を刺客と思い込んだ鄭蘭貞。「もう逃れられない」と観念して、毒薬を呑んで絶命した。
ただし、これは早とちりだった。使者は刺客ではなく、別人のところに用事があっただけだった。
しかし、ちょっと木の葉がざわつくだけでも震えるような生活を送っていた鄭蘭貞は、もう逃亡生活に耐えられなかった。平然と悪事を重ねてきた女性にしては、最期はあまりに小心すぎた。
それは、尹元衡も同じだった。
彼は悲嘆に暮れて、鄭蘭貞の墓の前で自決した。
王族を除けば朝鮮王朝で最高の品階を得た尹元衡と鄭蘭貞。命を失ったときは最下層の身分と同様だった。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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