小国が大国にさからってはいけない
王に武勇を認められるのは、武将にとって最大の名誉のはずだった。しかし、李成桂はその言葉を受け入れるわけにいかなかった。
「私は遼東への侵攻は反対でございます。まず第一に小国が大国に兵を向けるのは、兵法から見ても間違っているからです。第二に夏の暑さは兵の士気を下げ、いたずらに兵力を消耗してしまいます。第三に連日降り続ける雨の中の遠征では、兵の間で伝染病が発生する恐れがございます。第四に北方の遼東に兵力を傾けたら、南方の倭寇に対する警戒が疎かになります。以上の4つの理由により北伐は中止すべきでございます」
現状を冷静に分析した李成桂の忠言だが、彼の言葉は武将として同格の崔瑩(チェヨン)に遮られた。
「李将軍の言葉は臆病者のたわ言でございます。彼が4つの理由をもって兵を出すことをやめるのならば、私も4つの理由をもって彼の意見を否定しましょう。1つ、明はいま元(モンゴル国家)の残党との戦に集中していること。2つ、そのため遼東の防備が疎かになっていること。3つ、遼東を手に入れたら秋には大量の食糧を入手できること。4つ、明の兵士たちは雨の中の戦いに不慣れなこと。これだけの理由がありながら進軍しないのは、絶対にいけません」
高麗において最大の功を成してきた2人の対立に、王は頭を悩ませたが、国家の主である以上、決断せざるをえなかった。
「李将軍の言葉も一理ある。しかし、我が高麗の民の生活を豊かにするためにも、遼東の地を手に入れることは必要なことだ。よって、崔将軍は首都防衛の任に就き、李将軍は10万の軍勢を率いて遼東の地を制圧せよ!」
いくら李成桂でもこれ以上王の命令に背くことはできなかった。
文=慎虎俊(シン・ホジュン)