夢で見た王の姿
突然のことに面食らった李成桂は、僧にどうしたのかと問いただすと、僧は辺りを見回してから静かに言った。
「今後、夢の話は誰にも話してはいけません。万一、話をすれば大きな罰を受けることとなるでしょう」
李成桂の問いには何も答えず、僧は訳のわからない注意を繰り返した。しびれを切らした李成桂が「絶対に他の人には話しませんので夢の意味を教えてください」と言うと、僧は「あなたは後日、必ず王になるはずだ」と答え、その理由を教えてくれた。
「いいですかな。夢で崩れていく家は高麗を指すもので、柱は家の最も重要な材木であり、それを頂いたということは国を背負って立つという意味であります。即ちそれは王の姿につながるものです」
この夢のなぞ解きをした僧こそが、後の李成桂と深い縁を持つ無学大師(ムハクテサ)であった。李成桂は後日この言葉の意味を噛みしめることになる。
時は流れ、順調に出世した李成桂は高麗最高の武将と称されていた。
1388年、中国大陸の大国・明は高麗に対し、領土の明け渡しを再三要求してきた。そのことに頭を痛めた高麗王は重臣たちを一堂に集め、今後の指針を見出そうとして李成桂に尋ねた。
「そなたの働きによって、異民族の侵攻を何度も食い止められた。しかし、奴らは厚顔無恥にも再三我らに領土を献上せよと要求してくる。そなたの武勇をもって奴らを打ち倒し、遼東の地を手に入れてくれないか」(ページ3に続く)