必須な人を取り上げる
韓国時代劇の流れを変えた、という意味でも『王女の男』は時代劇のターニングポイントになったと言えるかもしれません。
この作品は1453年に起こった歴史的大事件の「癸酉靖難(ケユジョンナン)」をうまく活用しながら、独特のキャラクター作りがなされています。
物語の主軸には、首陽大君(スヤンデグン)と金宗端(キム・ジョンソ)という大物同士の対立が根深くあり、さらにその娘と息子が禁じられた恋に落ちるという構図になっています。
葛藤につぐ葛藤というストーリー展開に加え、衣装は現代的な感覚で華やかに作られ、映像の美しさに心を奪われます。さらにイタリアンオペラを彷彿させる荘厳かつ華麗な楽曲の使用など、制作側の工夫がいろいろ凝らされています。
キム・ジョンミン監督も言っていますが、韓国時代劇には「歴史上、絶対に取り上げなければならない人を正しく取り上げる」という役割があるのです。
朝鮮王朝の歴史はかなり不条理なもので、正義が必ず勝つわけではなく、むしろ負けっぱなしです。
王位継承争いにしても、悪が勝つことのほうが多かったのです。それでも、正しいことを行なおうとして、その願いがかなわなかった人たちがいました。韓国時代劇では、そんな人たちをきちんと取り上げようとする意図が明確です。『王女の男』でも、死六臣がつかまって牢獄にいるときにキム・スンユが助けに来ますが、彼らは「我らは歴史の中に残り、首陽がどれほどひどい男であるかをみんなが忘れないようにしたい」と言って逃げません。(ページ3に続く)